新野 保路

地域で、人を診る
暮らしに寄り添う総合診療の現場から
地域医療の課題解決を目指す

  • 南越前町国民健康保険今庄診療所
    医師
  • 新野 保路さん
  • SHINNO Yasumichi
  • 2015年度医学部 医学科卒業

「病いではなく人を診よ」―その言葉が、医師の道を開いた

 幼い頃から通った開業医がありました。患者さん一人ひとりに真摯に向き合う背中が、自然と心に刻まれていったように思います。浪人時代に予備校の掲示板で出会った福井大学の林寛之教授の「病いではなく人を診よ」いう言葉。この一言が、地元のかかりつけ医が私の学校生活まで気にかけてくれた記憶と重なり、「人に寄り添う医師になりたい」という思いを強く抱くようになりました。医療の最先端を突き詰めていくことも魅力的ですが、私は聴診器をあて、対話を通して、「おや?」と感じた違和感から一歩深く掘り下げていく臨床が好きです。医療機器では捉えきれないサインを見逃さず、目の前の〝人そのもの〞を診ていきたい。その姿勢を、今も大切にしています。
 医学部では、地域枠「福井健康推進枠」の1期生として学び、同級生と地域医療サークル「ぷちぷら」を立ち上げました。サークル活動の一環で、在宅医療や地域医療に取り組む医療機関にて、外来や訪問診療?病棟看護、お看取り、まちづくりNPOなど、さまざまな現場を経験しました。医学生としての関わりに加えて、まちづくりNPOの集まりに参加したり、地域のコミュニティスペースに出向いたり、地域の暮らしそのものに「人」として触れる機会も多くありました。当時、サークルの顧問である福井大学医学部地域プライマリケア講座の井階友貴先生には「楽しくやる」ことの大切さを教えていただきました。こうした関わりの中で、目の前の方の、人となりや普段の暮らしが見えてきて、それが医療におけるコミュニケーションの基礎になると実感しました。地域医療の場に出て、自然と学びを得られる環境を地域の方々や先生方にお世話になって、一緒に育ててきました。当初メンバーは5名でしたが卒業時には、ずいぶん賑やかになりました。

暮らしとともに課題を見つめ、人の存り方の最適解を探し続ける

 現在は今庄診療所で総合診療医として地域医療に携わっています。外来診療や病棟診療、金曜午後には訪問診療に出ています。元々地域コミュニティにいるのが好きな性分なので、診療所の立地する近くの宿場町にあるお店などにも顔を出しています。今庄地区では、秋はつるし柿がおいしくなり、糖尿病の数値が悪化する方が増える季節。食生活は日々の暮らしそのものであり、その積み重ねが体に現れます。医療機関では見えにくい日常の様子を知ることが、病気の原因究明の手がかりになり、予防にもつながることを実感してきました。つまり、診療所の敷居は低くあるべきだと感じています。さらに、医療機関の外でも相談できる場所を作っておきたい。例えば、暮らし実習で、患者さんが学生に対して心を開き、本音をこぼす場面があります。人と向き合う中で学生も視点が育ち、問いが深まっていく。学生のうちに地域の人々と関わることで、学生もコミュニティの一員になれるという意味でも、大きな価値があります。そして、地域医療は医療者と患者だけでは成り立ちません。受け入れてくれる土壌があってこそ、活動の基盤が築かれます。
 少子高齢化をこえた人口減少など多数の課題がある地域医療界隈ですが、診療所を“コミュニティケアのハブ”の一つとして、地域の方々と手を取り合いながら、課題に向き合いたい。地域医療を持続可能なものにするために、「人の存り方の最適解を探し続ける」姿勢をこれからも大切にしていきます。

My memories

  • 同級生と旅行でわんこそばを食べた記念写真 友達って大事
  • 下手くそな自分だったけど、楽しかった弓道 部生活